ウィリアム・C・デメント『ヒトはなぜ人生の3分の1も眠るのか?』【書評】
▼ この本を読んでから、睡眠についてもっと知りたくて睡眠について書かれた本をいくつか読んでいます。
タイトルの答えは?
著者は睡眠学の権威。
これまで読んだ睡眠に関するいくつかの本の中でも、取り上げられている方です。
ただし、この邦訳書のタイトルは良くない。
原書のタイトルは『The Promise of Sleep』
まったく違います。
そして、このタイトルの答えは書かれていません。正確には、本書の中で「わかっていない」と書かれています。
眠りには「生命維持の目的」があるのかということですが、これについて多くの仮説があり実験もされているようですが正確な理由はわかっていないとのこと。
睡眠に「長い時間を費やしているのに、睡眠が私たちに何ひとつもたらさないとすれば、それは自然の犯した最大の過ち」という著者以外の方の言葉を引用されています。
睡眠についての本って、こういう笑ってしまいそうになる表現が多いですね。
ただ、タイトルは良くないですが、文章はとても読みやすい。
そして、本のカバーは可愛くていいですね(笑)
他の睡眠本同様、本書でも研究結果がたくさん紹介されていますが、その多くが結果であって、根拠等の説明はあまりありません。
例えば、レム睡眠が生命維持に不可欠かどうかを調べる実験。
被験者には30分間眠った後、一度ベッドから出て、そのまま60分過ごしてもらいます。この90分を1サイクルとすると、24時間で30分×16回で合計8時間の睡眠が取れることになります。ただし、レム睡眠はノンレム睡眠が60分ほど続いた後にしか現れないはずなので、もしレム睡眠がどうしても必要なものでなければ、8時間の睡眠中にレム睡眠は皆無ということになるはずです。
それを検証した実験ですが、結果は30分間の眠り全部をレム睡眠が占めることが16回のうち何度かあったということ。本来なら眠りに落ちてすぐレム睡眠が始まるのは新生児くらいだそうであり、この実験によってレム睡眠が不可欠であることがわかったということですが、なぜそうなのかは記載されていません。
ただ、結果がそうであったということがわかっただけなので、理由が解明されていないので仕方はないのでしょう。
以下、気になったところをいくつか挙げます。
睡眠負債は悪徳サラ金
蓄積した睡眠不足のことを「睡眠負債」と呼びますが、それはお金の負債と同じでいつか返さなければならないから。
普段、8時間眠っている人が、ある晩5時間しか眠らなかった場合、次の晩に不足分の3時間を足して11時間寝ないと、その翌日を快調に過ごすことはできないとのこと。
これは蓄積されていくもので、8時間睡眠が必要な人が6時間しか眠れないとすると5日で10時間の睡眠負債を抱え込むことになるといいます。つまり、土曜日には計算上午後5時まで眠らないと負債は消えないということです。
睡眠負債という考え方は、いろんな本で触れられていますが、ここまで単純な理屈なのか? という気がします。
ただし、睡眠負債は多少ある方が睡眠効率が良くなるので望ましいとも言っています。
うたた寝の絶大なる効用
うたた寝は疲労回復に絶大な効果があり、その後の作業効率や頭の冴えを飛躍的に改善してくれるとのこと。これも、よく言われることですよね。
そして、眠りがらみの危機を避ける最も効果的な手段でもあると書かれています。
著者はうたた寝には明確な定義はないが、4時間を超える眠りはうたた寝とは言わず、また5分未満の眠りは、瞬眠(マイクロスリープ)に分類したほうがいいと言っています。
時間などを考えて計画的に取るうたた寝は、作業効率を上昇させ、その後の覚醒度も高めることが多くの研究によって確かめられているとのこと。
会議中、あるいは本を読んでいるとき、まぶたが重たいと感じたら、眠りが迫っていることを示しているといいます。
脳波の記録を観察した実験では、まぶたが重そうになったときにはもう瞬眠が始まっているとのことで、しかもそのまま目を閉じてしまうと、2分ほど眠り続けてしまうのだとか。
運転中のことを思うと、これは恐ろしいですよね。
実際、著者は車の運転中に目を開けているのがつらくなったら、その場で路肩に停車することにしているのだそう。
専門家ならではの危機回避の徹底ですね。
すべてのドライバーはもっと意識する必要がありそうです。
しかし、運転中や退屈な会議中は睡魔に襲われることが多いもの。
長時間、動かずにいるのは良くないですよね。
ただ、運転中であれば急いでいたりするし、会議中も動き回ったりもできないもの。
どちらの場合も、最低限、換気くらいはしっかりすべきですね。
会議であれば、僕が議長ならなるべく短時間で済ませ、そして部屋から出ていかなければ動き回ってもいい! なんていうルールにしたいものです。
なお、他の書籍でも同様のことが触れられていましたが、カフェインが効いてくるまでには15〜30分間くらいかかるようであり、先にカフェインを飲んでからのうたた寝を推奨しています。仮眠後15分ほどはだるさが残っていて、仮眠をしてからカフェインを摂ると、カフェインが効力を発揮するまでの空白時間が重なってしまうと言います。
よほど敏感な人でない限りコーヒーを飲んでからうたた寝をすると、ちょうどすっきり目覚められるとのこと。
睡眠潜時反復テスト(MSLT)〜昼間の眠気と睡眠負債を知る最適な手段
静かな暗い部屋でベッドに横になった状態で、眠りに落ちるまでにかかる時間のことを睡眠潜時というそうです。
スプーンを使って、簡単にこれを図る方法が紹介されています。
どちらかの手で金属のスプーンを軽く持って、すぐ下の床に皿を置いておきます。
時刻を確認してから、リラックスして眠たくなるのを待ちます。
眠りの段階に入り、筋肉が弛緩すると、持っていたスプーンが落ちて皿に当たります。
かなり重い睡眠障害でない限り、その音で目が覚めるはずで、最初に確認した時刻と目が覚めた時の時刻から、睡眠潜時を割り出せます。
家庭で実施する場合は、午前10時と午後12時30分、午後3時の3回、もしくは午前10時と午後1時に計測します。
夜に実施しないのは、夜は睡眠負債よりも年齢に大きく左右されるからだそう。
できれば、数日間にわたって行い、平均値を出すことが推奨されています。1〜5分
睡眠不足がはなはだしい状態。無呼吸や不眠症と切った睡眠障害の可能性が高い。全く治療を受けていないナルコレプシー患者もこの範囲に入る。
5〜10分
明らかに睡眠不足。体内時計による覚醒の働きかけが弱まる時間帯、また車の運転中や休息中に強い眠気に襲われることがある。
10分〜15分
睡眠負債は管理できる程度のレベル。仕事に熱中すると眠さを感じないこともある。15分〜20分
睡眠負債は全くないか、あってもわずか。もしくは、テストを実施したのが覚醒のピーク時だった。
著者はある意味で最も望ましい睡眠潜時は、10〜15分程度としています。
ドラえもんの主人公? の、のび太は、ナルコレプシーの疑いがありそうですね。僕も夜はもちろん、昼寝をしようと思ってもすぐに眠れるほうなのでちょっと心配です。
一般的には睡眠の問題としては不眠が問題視されていますが、日本人のナルコレプシーは結構多いとかいいますよね。
睡眠は、人それぞれ
他の本で、本書の著者が睡眠は人それぞれだと言っていると書かれていました。
確かにその通りでした(笑)
本書の著者は、眠りの必要量やスタイルは人それぞれであり、健康な眠りを手に入れられる秘訣など存在しないとのこと。
重要なのは自分の眠りの必要条件を知り、その知識を活用することだと言います。
そして、終章で「3週間の眠り改善プログラム」が掲載されています。
詳細に書かれていますので、試してみたい方は、ぜひ読んでみてください。
まとめ
睡眠関連本を読む目的を、「人はなぜ眠るのか?」とすると答えは書かれておらず、消化不良を起こすことがはっきりとわかってきました。
次からは「もっと睡眠と上手に付き合う方法は?」といった目的で読んだほうが良さそうですね。
講談社
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