『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』【書評】
以前にも「欠乏」について書かれた本を読みました。
まだまだ「時間がない」とか「お金がない」を言い訳にしていますので、本書を読んでみました。
この本は、「行動経済学」、とりわけ欠乏をテーマにした本です。
経済学では、人は合理的な行動をするはずだという前提がありますが、ほとんどの人は実際には合理的な行動をしないことから、「行動経済学」という概念の研究がされてきています。
その中でもこの「欠乏の行動経済学」は、私たちの不合理な考え方、行動を解明します。
欠乏が欠乏を生む
とにかく、人は時間やお金、気持ち等々、いろんなものが「欠乏」していると、大きな間違った判断を下してしまうということです。
ワーキングメモリが「欠乏感」に使用されているんでしょうから、頭も悪くなると言えそうです。
ダイエット中の人の目の前にドーナツが置かれたら、意思力など消え去ってしまい、他のことなど頭から飛んでしまいます。
私たちが、正常な行動ができるようにするには、この「欠乏」をなくしてしまわないと、欠乏の罠にはまって抜け出せなくなるといいます。
本書で紹介されている欠乏の原因をいくつか挙げてみます。
トンネリング
欠乏を解消するための 「過度な集中」 が悪いと言います。著者は、これを 「トンネリング」 (トンネルの内側のものは鮮明に見えるが、トンネルに入らない周辺のものは何も見えなくなり、視野狭窄となること) といいます。
集中は有益なことであり、欠乏のおかげで人はそのとき最も重要と思われることに集中するが、トンネリングはそうではなく、欠乏のせいで他のもっと重要かもしれないことがトンネルの外に押し出されてほったらかしになるとのこと。
スラックの有無とトレードオフの概念
スラックとは、「ゆるい、たるんだ、いいかげんな、怠慢な」等々ですが、ここでは、「余裕」に近い意味で使われています。
本書のスーツケースの例がわかりやすい。
スーツケースが大きいと、適当に詰めても入るし、それほど持ち物も考えなくてもいいし、準備も簡単に終わります。 一方、スーツケースが小さいと、きっちり詰めないと入らない、何かを入れようと思ったら、何かをやめないといけない、というように、準備に時間がかかる上に、モノの入れ替えに 「トレードオフ」 が生じます。これが、スラックがない状態、です。
著者は、スラックの概念は欠乏心理の核心に迫るもので、スラックがあると豊かさを感じられ、スラックはたんなる非効率ではなく、心のぜいたくでもあるといいます。豊かであれば、より多くの品物を買えるだけではない。ぞんざいに荷造りをするぜいたく、考えなくてもいいぜいたく、そして間違いを気にしないぜいたくが許されるとのこと。
「人の豊かさは気にしないでいられるものの数に比例する」と言っている人もいるようです。
欠乏と豊かさ
何かの締め切りや期限が近くになると、「時間が足りない!」と焦ります。
給料日前になると、「お金が足りない!」ということもあります。
著者は、豊かなときにどう行動するかが、来るべくして来た欠乏の一因となるといいます。人はお金がありあまっているときに貯金をせず、締め切りがずっと先のときにダラダラと過ごします。
著者は欠乏の筋道を遡ると、豊かさにたどり着くといいます。
景気後退の原因は好景気に沸いている時の人々の行動にあり、土壇場の詰め込みはその前の怠慢のせいだと言います。
欠乏は多くの重要な問題で主役を演じているが、その舞台を整えたのは豊かさとのこと。
まとめ
欠乏の原因が豊かさであり、欠乏がさらなる欠乏を生むということ。
非常にわかりやすく面白い。
欠乏しないためには、スラックが必要で、豊かなときにとにかく予防をしておく必要があるということ。
しかし、忙しいときにスラックを作らないのは、目の前にやることが多すぎるからだし、そんな時はスラックは余裕ではなく、無駄だととらえがち。そして、今度はスラックを言い訳にした怠慢になってしまわないかという恐れもあります。
計画を立てる重要性はわかっていても立てないのは、まさに欠乏の準備をしているようなものですね。
締め切り間際にならないとやる気にならないという人も多いでしょう。
夏休みの宿題はいつも最後の日に追われているという経験がある人もいると思います。
実際に追い込まれるとそのことに集中出来る傾向があるため(著者は「集中ボーナス」と言っています)、欠乏の状況にわざわざ追い込む人もいるかもしれません。
でも、そうすると欠乏の罠に陥り、トンネルに入ってしまい、視野が狭くなって周囲の景色が見えなくなります。結果として、失敗したりしてしまいます。
時間、お金、心、健康、処理能力、これらを踏まえた上で、事前準備をする必要があるわけです。
そのときになって対処するようなことは多いですが、余裕を作るために普段から欠乏の予防、備えをすることを習慣化したいものです。