櫻井 武 著『睡眠の科学』【書評】
先日、堀 大輔 著『できる人は超短眠!』という睡眠に関する本を読んで、衝撃を受けました。
それで、他にも睡眠について書かれた本を読んでみたくなり、本書を手に取りました。
本書の著者は、睡眠・覚醒について、また摂食行動について、研究を行っている医師です。
ノンレム睡眠とレム睡眠
この2つの睡眠は、睡眠について語られるとき必ず取り上げられることですよね。
著者は、一般的に言われているノンレム睡眠を深い眠り、レム睡眠を浅い眠りということについて、これは乱暴な言い方で、脳の状態からも全身の状態からも、ノンレム睡眠とレム睡眠は全く違うものだといいます。
以下、少し長いですが、詳しく説明してくれていますので、引用します。
人は眠るとまず、ノンレム睡眠に入る。
ノンレム睡眠のときは、大脳皮質のニューロンの活動が低下して、だんだんと同期して発火するようになる。眠りが深いほど、神経細胞の発火はゆっくりと同期して起こるようになる。これは脳が”スリープモード”に入ったことを意味する。
それからしばらく(60〜90分ほど)経つと、なぜか脳はまた活動を高める。これがレム睡眠である。脳は覚醒時と同様か、あるいはそれ以上に強く活動している。しかし感覚系や運動系が遮断されているため、身体は眠った状態にある。感覚系を介して脳に伝えられるべき情報は、大脳の深部にある「視床」とよばれる情報の中継点を介する。レム睡眠時には、視床での情報伝達が遮断されているのだ。逆に、脳から運動系を介して全身の筋肉に伝えられる情報は、脊髄のレベルでカットされている。つまりレム睡眠時は、脳へのインプット(感覚)と脳からのアウトプット(運動)が、インターフェースのレベルで遮断されてしまっていることになる。いわば、”オフライン”の状態といってよいだろう。なぜレム睡眠が必要なのか
それにしてもなぜ脳は睡眠中に、わざわざ複雑な手順をとってまでレム睡眠という状態をつくりだし、活動を高めるのだろうか。その理由を解明する為、レム睡眠のみを除去しようとする実験が行われてきたが、実際には困難である。通常、レム睡眠はノンレム睡眠がしばらく先行してからはじめて現れるが、レム睡眠のみを除去しようとするとレム睡眠に入った瞬間に強制的に覚醒させるということを行うらしく、これを繰り返していると、レム睡眠に入るまでの時間がだんだん短くなっていき、やがては睡眠に落ちた直後にレム睡眠が現れるようになる。
つまり、レム睡眠がノンレム睡眠と別の機能があるため、それを維持しようとしていると推測されている。
著者がレム睡眠を「浅い眠り」と呼ぶことに否定的なのは、もしレム睡眠が「浅い眠り」なら、断眠(睡眠を断つこと)後には「深い眠り」が現れ、レム睡眠は抑えられるはずなのにそうならないためということらしい。
睡眠の約75%はノンレム睡眠であり、残りの25%がレム睡眠。
これらは規則正しく繰り返され、健康な眠りでは、レム睡眠は必ずノンレム睡眠の後に現れるそう。これをおよそ90分周期で繰り返しているとのこと。
この辺りは、しょっちゅう耳にすることですよね。
本書において
レム睡眠時には脳は活動していることから、脳を活性化モードとスリープモードに分けて考えると、
覚醒(起きていること)とレム睡眠は活性化モード、
ノンレム睡眠はスリープモードだといい、
覚醒時はコンピューターがオンでインターネットにも繋がれている状態に対し、
レム睡眠時は、脳と外界との情報のやり取りが遮断されてオフラインで脳が活動している状態、
ノンレム睡眠時は脳はスリープモード
だと著者はたとえています。
例えはわかり易いですが、それで何かがわかるわけではないですね。
その他にも、本書では、専門的な記述が多いですが、それらを知りたければ、ぜひ本書を読んでもらうのが一番ですので、以降は普通の人が気になるような具体的なことをまとめてみました。
動物の睡眠
草食動物の多くは睡眠時間が短く、ウマやシカなどは1日の睡眠時間が2時間から3時間だそう。
逆に、高カロリーの餌を摂る肉食獣の睡眠時間は長いのだとか。
ということは、野菜だけ食べていれば、睡眠時間が短くて済むのかという発想が浮かびますが、短絡的すぎでしょうか。
そういえば、先日、『食べない人たち』という本を読みました。
これも衝撃的な本でしたが、その本の中で
食べないことによって、消化・吸収で体が疲れなくなるために睡眠時間が少なくて済むようになる
と書かれていましたが、動物の事例からも、あながち生物学的に間違っているということではなさそうです。
食べること、寝ることが好きな人にとっては、馬鹿な話でしょうが、試してみたい気はします。
お昼過ぎ後の眠気
お昼過ぎ、食事をした後に眠くなる人は多い。
俗に「消化のために胃腸に血が集まるから、脳に血が行かなくなって眠くなる」といわれるが、著者はそうではないといいます。
脳は全身で最も血液が必要な臓器であり、脳への血流は常にできる限り確保されるように調節されています。大出血があったとしても、消化管や筋肉、皮膚などの計液を少なくして脳に集める機能があるので、消化のために脳の血流を犠牲にすることなどありえないとのこと。
それはそうですよね。朝食後は眠くなりません。
じゃあ、なぜかというと本書には明確な答えは書かれていません。
寝ないですむ薬はできるか
「「寝ないですむ」などということは絶対にないと断言したい」
と書かれていますが、根拠は書かれていません。
「〜〜だろう」という記述に終始しています。
何時間寝ればいい?
アメリカで行われた大規模な調査では、7時間睡眠をとる人が最も長命であるとされていて、それ以下でもそれ以上でも寿命は短くなるといいます。
しかしながら、この調査には疑問点が多いとのこと。
人は歳をとるほど必要な睡眠時間が減少していくので、調査対象に長寿の人が多いほど睡眠時間が短くなるのが当然ですが、この調査ではその点が考慮されていないといっています。
一般的には7時間前後が多いが、「翌日、眠気を感じずに、すっきり過ごせるだけ眠ればよい」というのが適切な答えであろう。
とのこと。
この本読んで思うのは、睡眠って、本当にわかっていないことだらけなんだということ。
目覚ましが鳴る前に目が覚めるのはなぜ?
この理由は、明確に書かれています。
眠りは、人の時間感覚を麻痺させることがあるようだが、反面、眠っている間にも脳は確実に「時」を感じているというのも事実。
いつもより早く起きなければいけない時に、アラームをセットして眠ったところ、以外にもアラームが鳴る前に目が覚めるということがある。
これは、起床時刻をあらかじめ指示されてから眠ると、その時刻の1時間ほど前から血液中に副腎皮質刺激ホルモン(コルチコトロピン)というホルモンが増えて、起床に備える。
これは、起床する時間を意識してから眠りにつくことによって、起床時刻に向けて身体をコントロールすることが可能であることを示している。
明日は、いつもより早く起きなければならない、という意志は、睡眠中にも脳を支配して、心身をコントロールしている。
これくらい他のことも明確であれば嬉しいですが。
コーヒーを飲むと眠れなくなるのはなぜ?
カフェインに覚醒作用があることは周知のことですよね。
睡眠負債という言葉があります。覚醒して、活動していれば睡眠負債はどんどん増えていくということ考え方ですが、実際のところそのメカニズムは分かっていないが、脳内に睡眠物質という睡眠を誘導する物質が蓄積していくことと関係があるという説があるそうです。
この睡眠物質の候補の一つに アデノシンというものがあり、カフェインはこのアデノシンの拮抗薬として働くとのこと。アデノシンこそ睡眠物質であり、睡眠負債の本態だと考える研究者は多いようだが、反証事例もあり、他にも睡眠物質は存在するのだとか。
僕は夕方以降にコーヒーを飲むと眠れないが、寝る前にコーヒー飲んで寝る人もいるくらいだから、個体差なのか、これだけではないのか、よくわからないですね。
なぜ眠らなければならないの?
この問いに対する答えとして、本書でも著名な睡眠研究者であるデメントの言葉が引用されています。
デメントはこの問いに、
「私が知る限りでは、はっきりしているのはただ1つ、眠くなるから眠るのだ」
と答えたといいます。
これには、いろいろとツッコミを入れてみたくなります。
「なぜ食べるのか?」という問いに対する生物学的な答えは、「お腹が減るから」でもなければ「おいしいから」でもない。「エネルギーを摂るため」と著者も書いています。
しかし、「なぜ眠らなければならないのか?」という問いへの研究者への答えは、「なぜ食べるのか?」という問いに対して「お腹が減るから」と答えているようなものだと思うのですが。
あまりにも残念な答えじゃないかと思ってしまいますが、それだけ睡眠については、まだまだ研究してもわかっていないということなんですね。
終章で、「なぜ眠るのか?」という問いに対する著者の仮説を展開していますが、あくまでも仮説です。
本書を読んで
著者は、人は自分の睡眠に対して、限られたコントロールしかできないと言います。
この意見に関しては、僕はあまり納得できません。
極論を言えば、しっかりと眠りたい人はそうすることで睡眠をしっかりコントロールできているとも言えます。
それを限られたと言えば、それまでですが。
ますます睡眠について興味が出てきました。
また、別の本も読んでみようと思います。
睡眠の科学―なぜ眠るのかなぜ目覚めるのか (ブルーバックス)
講談社
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